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2014年12月23日 (火)

神奈川新聞の 安倍政治を問う〈1〉から〈16〉までと、関連記事を2本採録。

 辺見庸さんが紹介された記事からたどり着きました。読みごたえがある記事が多いです。

 

安倍政治を問う〈1〉「かじ取り 国民の手に」 弁護士・太田啓子さん
2014.11.21 12:23:00
https://www.kanaloco.jp/article/80659/cms_id/112683
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1_623fb433ed2495f75746d6df76754e2_2太田弁護士

 

 世論の反発を受けながら安倍晋三政権が押し切った、特定秘密保護法の制定と集団的自衛権の行使容認。

 「両者はそれぞれ独立していると認識している人が多いが、根っこでつながっていて、密接に絡み合っている」

 横浜弁護士会所属の弁護士、太田啓子さん(38)はそう力説する。

 一体何が秘密なのか、それは秘密です-。

 政府による秘密保護法の恣意(しい)的運用の危険性を端的に示すものとして、そう言い表されてきた。10月の衆院予算委員会での安倍首相の答弁は、その懸念があらためて証明された瞬間といえた。

 安倍首相は「行政機関が特定秘密の提供を拒む場合、独立公文書管理監にその理由を疎明しなければならないことを明記することを検討している。特定秘密が提供されない場合はきわめて限られると考えている」と監視機関の役割を強調し、意図的な情報の非開示がないようにすると説明した。だが、特定秘密に指定された情報が国民に提示されない可能性については否定しなかった。

 太田さんは言う。

 「集団的自衛権の行使を認める要件に該当するかどうかの判断材料自体が特定秘密に指定され、公開されない可能性がある。ある日、政府が集団的自衛権の行使をすると決め、他国での戦争に自衛隊が派遣されることになっても『理由は特定秘密なので、詳しくは言えません』と言われてしまうようなもの」

 どういうことか。

 「国民生活に大きな影響を及ぼす集団的自衛権の行使が正当かどうかの判断材料がない。例えば、イラク戦争のように大量破壊兵器があると言われて本当かどうか。武力行使以外の方法がないのか。目隠しされて船に乗せられているようなもので、明らかに危険水域に向かっていても、それの危険性を知る手段がないということ」

■怒り
 東日本大震災で東京電力福島第1原発事故が起き、ママ友たちの不安を耳にした。自民党が政権に返り咲き、憲法改正がママ友たちの間で話題に上った。憲法について語る出前講座を始めた。

 原動力は「恐怖と怒り」だ。

 「福島第1原発事故後の政府の対応はひどかった。だが、それ以上に、政府に従順でありすぎる日本社会の風潮に恐怖を感じた。もっと、みんな怒らなければいけないんだ、と」

 気軽に立ち寄れるようにとの思いから、場所はカフェやお好み焼き屋などさまざま。いつしか「憲法カフェ」と呼ばれるようになった。

 そこで希望を見た。

 「憲法について考えたこともなかったというお母さんが真剣な表情で聞いてくれる。チラシを見た大学生が、友だちを誘って勉強会に来る。少しずつではあるけれど、その輪が広がっている」

 悲観的な声も届く。

 「選挙に行ったって意味がない」「デモをすることに何の意味があるのか」

 そんな時、必ず言うことにしている。

 「無駄なことは何もない。政府は国民が諦めることを狙っている。無力感を学ばせようとしている。そうなったら、政府の思うつぼだ

 太田さんは2児の母でもある。

 「絶望的な社会状況に置かれてもなお、希望を見いだそう、希望がないならつくりだしていこう。そういう生き方を子どもたちにはしてほしい。絶望したり、無力感にとらわれたりして生きてほしくない。親としてあの時も、こんなにひどかったけれど『お母さん、希望を捨てなかったし、小さな希望を大きく育てたよ』と示したい」

■選択
 12月10日の施行が迫る秘密保護法。「目的は、国民を萎縮させるところにある。例えば、デモ。デモで訴えたい、言いたいと思うことは特定秘密の漏えいの教唆ではないと思うが、逮捕されるのは怖いから、念のためやめておこうと思ってしまうかもしれない」

 それは情報を国民に届ける報道機関も萎縮しかねない。

 「そうなると、いろいろな情報が流通しづらくなる。情報がないから自分が『この情報を知らない』ということすら気が付かない。知らないうちに、本当は知らないとまずいことさえも認識できなくなる」

 情報とは「例えば、食品添加物が入った食品を知りたいと思う人もいれば、放射線量が健康にどれほどの影響を与えるのかについて知りたい人もいる」。自分でどういう風に生きるのかを決める上での最重要事項と考える。

 では安倍政治の行き着く先は、どんな社会か。

 「言いたいことも言えない、おかしいと思ったこともいえない。自分らしく生きることなどできない、そんな社会が待っている」

 いまの日本社会を中島みゆきの歌になぞらえる。

 〈その船をこいでゆけ/おまえの手でこいでゆけ/おまえが消えて喜ぶ者に/おまえのオールをまかせるな〉(宙船(そらふね))※

 「オールを政府に預けっぱなしにして、危険水域に進もうとしている船に国民は押し込まれている。もしかしたら、船は沈むかもしれない。水が入ってきて、命を落としてしまうかもしれない。あなたはそれでも何もしないですか。私は自分でオールを握りたい」

 迫る選択が持つ意味は小さくはない。

 =随時掲載

 おおた・けいこ 国際基督大を出て2002年に弁護士登録。横浜弁護士会、「明日の自由を守る若手弁護士の会」、「特定秘密保護法対策弁護団」に所属。県内を中心に出前講座「憲法カフェ」を行う。

【神奈川新聞】

※SOBA:mpgmp4 

 

安倍政治を問う〈2〉「命が守られない政治」原発避難者・村田弘さん
2014.11.28 11:00:00
https://www.kanaloco.jp/article/80957/cms_id/113736
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2_d6cee65788c04ce9360086b930b4fda_2 原発避難者の村田弘さん

 

 静かなる語り口は呼び掛けのようにも、自身に言い聞かせているようにも響いた。

 「政治を軽く見てはいけない。軽視すればどうなるか。命が政治によって左右される。福島から避難生活を強いられている私たちを見れば、それは明らかだ」

 福島原発かながわ訴訟原告団団長、村田弘さん(71)はそして続けるのだった。「当事者になって初めて、そのことに気付いたのだが」

 2011年3月の東京電力福島第1原発事故直後に妻と2人で南相馬市小高地区を離れ、横浜市旭区で避難生活を続ける。虚無に打ち震える冬も4度目を数えようとしていた。

■置き去り
 元全国紙記者。「常に否定的な視点から政治を眺めてきた」。駆け出しの頃、赴任先の熊本で水俣病に苦しみながら放置されている人々を目の当たりにした。横須賀では、原子力空母寄港反対のデモ隊を蹴散らす機動隊を見た。時に冷酷な振る舞いをみせる国家権力の非情さは知っているつもりだった。

 「だがいま、全く違う日本になろうとしている」

 政権に返り咲いた安倍政権は何をなし、何をしようとしてきたか。東京五輪の招致に成功した安倍晋三首相のスピーチを忘れない。

 「汚染水の問題についてなぜ『福島原発は完全にコントロールされている』などと言って、避難者を置き去りにしたのか。結局、原発の再稼働と原発の輸出が前提にあったのだろう。五輪招致の名の下、原発政策を前に進めるために福島の現実は覆い隠された」

 何を意味するのか。

 「普通の人が普通に生きる。それを守っていくのが政治の基本であるはずだ。だが、原発事故でふるさとを追われ、希望を失っている人に救いの手は差し伸べられない。事故の現状に向き合うことなく、一部の企業の利益が追求されている。政治の在るべき姿が完全に失われている」

 政府が九州電力川内原発の再稼働を決めたのは、解散2週間前のことだった。原発事故から3年8カ月が過ぎてなお福島の避難者は12万3千人を超える。動きだそうとしている原発と時が止まったままの避難者の日常。このアンバランスさはどうだ。「命と金がてんびんにかけられることはあってはならない」。語気はいきおい強まっていく。

■棄民政策
 福島の避難者のうち神奈川で仮の暮らしを送っているのは1900人。国と東電を相手に横浜地裁で起こした訴訟の資料集に筆をふるった。

 〈「安全神話」の下で、底知れない大災害を引き起こした原発政策を第1の犯罪とすれば、住民の命と健康と生活より「カネ」とばかりに、棄民と原発回帰に走る政策は、明らかに第2の犯罪、と言うべきではないか〉

 国や東電が事故の責任を明らかにせず、被害を救済する手だてを講じることがないなら、司法の場で自ら求めていくしかなかった。

 暗闇に希望の灯がともった瞬間もある。大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の運転禁止を求めた訴訟で5月、福井地裁は「地震対策に構造的欠陥がある」として再稼働を認めない判決を言い渡した。

 〈人の生存そのものに関わる権利と、電気代の高い低いという問題を並べて論じるような議論に加わり、議論の当否を判断すること自体、許されない〉

 〈原発停止で多額の貿易赤字が出るとしても、豊かな国土に国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることこそが国富の喪失だ〉

 判決要旨の文言に涙が出た。「僕ら避難者が思っていることを的確に言ってくれた」

 原発事故で避難を強いられ、自殺した福島県の女性の遺族が起こした訴訟では福島地裁が8月、事故と自殺との因果関係を認め、東電に賠償金の支払いを言い渡した。「小さな山あいの集落で生まれ育ち、子どもを育て、隣近所を付き合い、畑に花を植え、そういうささやかな生活を突然奪われた。どう回復していいかも分からない絶望感は、当事者にしか分からないが、判決はその苦しみに向き合った」

 まだ間に合う。そう信じたい。

■断絶痛感

 外は雨。クリスマスイルミネーションが通りを彩る。

 「時々、わびしくなる。僕らの生活は何一つ変わっていない。むしろ事故のことが忘れられ、状況は悪くなる一方なのに、なぜ、街はどんどん明るくなっていくんだろう、と」

 10月、福島の自宅へ半年ぶりに足を運んだ。山に面した裏手で放射線量を計測すると毎時3~5マイクロシーベルトに達した。神奈川の100倍に相当する数値だ。雑草に覆われ、押し入れからは蛇の抜け殻が見つかった。「どうしようもない現実が日本の片側で起きている」

 避難者の肉声を届けたくて市民集会に足を運んできた。参加者からの一言が忘れられない。「まだ、そんな状況なんですか」。悪気はなかったと思う。だが、そこに「ずれ」を感じてしまう。「越えられない断層があり、僕ら避難者は断層の下から見上げている。そんな感覚に陥る」

 自民党が25日に発表した政権公約。翌日、新聞に掲載された296項目の政策を目で追った。

 震災復興については「復興を加速し、災害対策や老朽化インフラ整備など国土強靱(きょうじん)化に努める」「復興加速化のための施策を推進」の2項目のみ。「原発についてもわずか数行。しかも『原子力規制委員会によって新規性基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原発の再稼働を進める』とある」。原発避難者の救済については一言も触れられていなかった。

 「やはり国に捨てられたと思わずにはいられない」

 「棄民」という認めたくない過酷な現実が、また口を突いた。

 むらた・ひろむ 2011年3月の福島第1原発事故直後に原発から20キロ圏内の南相馬市小高地区を離れ、夫婦で横浜市旭区で避難生活を続ける。福島原発かながわ訴訟原告団団長。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈3〉「安保政策 ゆがみ象徴」元防衛官僚・柳沢協二さん
2014.11.29 12:10:00
https://www.kanaloco.jp/article/81018/cms_id/113925
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3_11a124fc55d9afcbb4d5b4ea801935d_2 柳沢協二さん

 

 官邸を退き、安全保障の専門家として講演に招かれる機会が増えても、柳沢協二さん(68)は一線を引き続けてきた。

 「主催が『九条の会』なら断る」

 全国各地で護憲運動を展開する市民団体、九条の会。「自衛隊は違憲と言われたことがある。それでは話にならない」。内閣官房副長官補として、イラクへの自衛隊派遣で背負った責任と覚悟が、そう言わせたに違いなかった。

 かつて、九条の会を「敵」とさえみなしたその人が解散3日後の24日、ふじさわ・九条の会主催の学習会「集団的自衛権=戦争する国?」で熱弁を振るっていた。

 「集団的自衛権を行使するか否かの政府判断の範囲は際限なく拡大できる。客観的な歯止めはないに等しい」

 平然と言った。「私の話を聞いてくれるなら、どこへでも行く」。危機感が背中を押していた。

■決まり文句
 安倍晋三首相が政権の座に返り咲いて2年、繰り返される決まり文句があった。「政府が総合的に判断する」。7月の国会論戦でも、集団的自衛権を行使する条件を問われた安倍首相はさまざまな条件を説明した後、付け加えた。「ただし、総合的に判断する」

 政府はこれまで、自衛権を発動して武力行使ができる要件の一つを「自国が攻撃された場合」と明確に限定していた。安倍政権はしかし、憲法解釈を変更し、他国が攻められた場合でも日本の存立が脅かされるなど明白な危険があれば集団的自衛権を行使し、相手国を攻撃できるようにした。

 抱く危惧は議論のあいまいさにある。

 「日本の存立を脅かすというのはどんな事態を指すのか。具体的な説明が尽くされていない」

 国会審議で具体的なケースが例示されたが、懸念はかえって深まった。

 安倍首相は「日米同盟は死活的に重要だ。同盟の関係で起こり得る事態については、(武力行使の)要件に当てはまる可能性は高い」と答弁。中東ペルシャ湾のホルムズ海峡が機雷で封鎖されれば、「かつての石油ショックを上回る可能性はある。死活的な影響も考えられ、(武力行使に当たる)機雷掃海を選択肢として考える必要がある」とした。

 これでは日米同盟を脅かす事態も、石油供給が絶たれることも、日本の存立が脅かされることになり得る。柳沢さんは断言する。「日本には半年分の石油備蓄がある。自衛隊員が命を懸けてまで守るべき国益とは思えない。だが、いまの理屈では世界のどこで何が起きようと国の存立が脅かされると解釈できる。国会の承認を得るとしているが、やはり政府の総合的な判断というあいまいなものに委ねられてしまう」

■「俺に従え」
 あいまいさの問題は集団的自衛権の行使容認の議論にとどまらないとも映る。

 政府は武器輸出を原則禁止してきたが、ことし4月、国際条約の違反国を除外するなど三つの条件を定めて解禁に踏み切った。対象とする国は「安全保障上密接な国」とされている。「自衛隊が共同訓練をしている国は何十カ国もある。密接な国が明確に定義されていない。政府の判断でいかようにも広げられる」

 輸出できる武器の一つは「警戒監視に必要となる装備」とされ、やはりはっきりしていない。「想定されるのはレーダーだろう。船に積んで運用されるので艦船は必要になる。その艦船に武器も載せるのかは分からない。やはり定義はいいかげんだ」

 あいまいさはむしろ安倍政権を特徴付けているとさえ思う。「突き詰めると『俺の言っていることは間違いないから、無条件で服従しろ』と言っているようなものだ」

■望む国家像
 柳沢さんは、安倍政権を行き先表示のないバスに例える。

 「このバスはブレーキがあまり利かない。そして、行き先が分からないことが、日本にとって一番危険なことだ」

 首相は「積極的平和主義」「戦後レジーム(体制)からの脱却」というフレーズを好んで語るが、「なぜ集団的自衛権が必要なのかを議論すればするほど、『そうしたいから、する』という以外に論理的整合性のある答えがない。安倍首相は望ましい国家像や、それを実現するためにどのようなことをしていくかを語らない。都合良く解釈できるあいまいなフレーズを口にするばかりで、安全保障政策の根っこになるはずの国家像がよく分からない」。

 目線を原発再稼働や派遣労働拡大といった経済政策に転じてみる。共通しているのは、弱者へのまなざしの欠如ではないか。

 「こうした安倍政権らしさを全て詰め込んだのが、集団的自衛権の問題ではないか。紛争に介入すれば、自衛隊員が戦死する危険性が高まり、世界中にいる日本人がテロの対象になり得る。安倍首相は国会でこうしたリスクを認めなかった。国民よりも国家を重視している。だから、国民の痛みに不誠実になってくる」

 案じるのは国民の権利よりも国家を守ることを重んじ、戦争をいとわないと考える若者が増えることだ。「頑張っても報われない社会に若者の不満が膨らんでいる。そのはけ口を隣国に求めれば右傾化が進む」

 4人の首相に仕えた安全保障のスペシャリストとして、近著「自分で考える集団的自衛権 若者と国家」(青灯社)につづった。

 〈私は、どのような世界、どのような国が必要かといえば、そこに暮らす個人が、金持ちでも貧乏でも、学歴があってもなくても、それぞれ自分の目標を持ってそれを実現できるような国、世界であってほしいと思います。(中略)自分も他から強制されない、他を強制しない、そういう世界をどのように作っていくか、それが安全保障の本質だからです〉

 やなぎさわ・きょうじ 1946年東京都生まれ。東大法学部を卒業し、70年防衛庁入庁。官房長、防衛研究所所長などを経て2004~09年に小泉純一郎、安倍晋三(第1次)、福田康夫、麻生太郎内閣で内閣官房副長官補を務め、安全保障や危機管理を担当した。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈4〉国民の無関心、根底にあるもの-文化学園大助教・白井聡さん
2014.12.02 13:00:00
https://www.kanaloco.jp/article/81122/cms_id/114318
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4_4a9a9d2d26bd14f06c89590c98bd4af_2 白井聡さん

 

 国民の皆さん、もう覚悟してください-。

 突然の解散総選挙は、安倍晋三首相からのそんなメッセージと受け取った。「今回の選挙で与党が過半数を取れば、来年は好き放題やりますよということ。集団的自衛権の行使に関する実質的な法整備に原発再稼働の本格化、そして特定秘密保護法違反で逮捕者が出るかもしれない」

 険しいまなざしは、首相が成果を強調するアベノミクスにも向けられる。「景気浮揚は起こらなかった。円安に振ったのに輸出すら伸びなかった。これは恐るべき状態。さらなる金融緩和で相当危機的な領域に入って行きかねない」

 突きつけられているのはつまり、円と日本国債は信用が維持できるのかどうかという問いだ。「日銀の国債買い取りによって、国債に振り向けられている金融機関の資金を株式市場に誘導するのがアベノミクス。日銀が間接的に株高を演出しているにすぎない。つまりバブルだ」。重なる荒涼の光景があった。バブル化を進め、リーマン・ショックで破綻した米国の金融資本主義。「アベノミクスはバブルを積極的につくろうという政策。はじけたらどうなるか。日本国債の信用が劇的に失われれば経済が崩壊する。今、その瀬戸際に立っている」

■他力本願の愚

 政治思想が専門、戦後日本の在りようとゆがみの出発点を敗戦の否認に求めた「永続敗戦論」で名をはせた気鋭の若手論客、その舌鋒は有権者にも向かう。

 政府は、アベノミクスで大企業が上げた利益が地域の中小企業にこれから波及していくと説明する。「それが実現すると証明されたことはない。それを期待するって『奴隷根性』ですよね。自分で価値を創造するのではなく、金持ちのおこぼれがもらえるかもしれない、と」

 きっと誰かが助けてくれる-。染みついた他力本願の姿勢こそが安倍政権の独走を強く支えている、とみる。

 「例えば学生に『安倍政権の最も重要な政策は何か』と問い掛ける。僕は集団的自衛権の行使容認だと思ってヒントを出す。だが、近づきはしても『集団的自衛権』というフレーズが出てこない。何が起きても人ごとで自分にどんな影響があるか想像できない」

 それが赤裸々に露呈したのが東京電力福島第1原発の事故だ。風向き次第では首都圏も深刻な放射能汚染に見舞われていたはずだ。「そうならずに済んだのは単に運がよかっただけ。それなのに東電も経済産業省も、以前と変わらず存在し続けている」

 許しているのは「圧倒的な無関心」。

 「何もかも買い物の感覚でしか考えられない」。それが無関心の根底にあるという。「ブラック企業の話をしても、学生の感想は『そういう会社には入らないようにしたい』。今はちゃんとしている会社も、いつブラックになるか分からないのに、簡単に避けて通れると思っている」

 気に入らないものは選ばなければいい、見なければいい、という感覚。「そういう国民から搾り取るのは簡単だ」

■劣化する社会

 「戦後レジーム(体制)の脱却」を掲げる安倍首相が支持を得て、再び政権の座に返り咲いた背景に二つの文脈をみる。

 一つは、敗戦を否認し、米国に従属して冷戦の最前線を台湾や朝鮮半島に押しつけ、平和と繁栄を享受してきた日本の戦後体制「永続敗戦レジーム」。原発事故で戦後の矛盾が表面化したのに、戦後体制を脱却するどころか純化することで、良き時代の幻影になおもしがみついている。

 もう一つは、ネオリベラル化(新自由主義化)とともに起こった「再階級社会化」。「戦後、中流化が進んだ社会に再び格差が広がり、新たに下層階級となった人々を支持基盤にしているのが今の自民党」と指摘する。

 ただしその下層は経済的困窮だけを意味するのではない。「『嫌韓・嫌中本』を消費する多くは高齢者。ごく普通のサラリーマンや主婦にも排外主義的な気分は蔓延してきている」。ネット右翼、いわゆる「ネトウヨ」に在日コリアンの差別をまき散らすヘイトスピーチ…。これまでにない勢いで、社会に憎悪があふれ出しているように見える。「感情が劣化している。多くの人が剥奪感を抱えて攻撃的になる中、政治は解きほぐす努力をしなければならないのに、逆にそれを権力基盤にしている」

■沖縄化ならず

 総選挙の争点は、安倍政権を信任するか否か。ただし、「正しい対決の構図」になっているのは沖縄のみだという。

 先の県知事選。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を進めようとする現職の仲井真弘多氏が、新たな基地建設に反対した翁長雄志氏に敗れた。「沖縄は長年、永続敗戦レジームの犠牲者の立場に押し込まれてきた。仲井真陣営と沖縄自民党はいわば、永続敗戦レジームを代弁する勢力。それを打ち倒せと、保守と革新が結集した。衆院選でも野党の選挙協力がうまくいっている。自民党は沖縄地区で1議席も取れないのではないか」

 翻って本土。野党の選挙区調整さえ十分なされぬまま2日の公示を迎える。「本来、民主党の中でちゃんとしたことをやろうとする人は安倍政権に対抗すべく、社会民主主義的な勢力を結集するための努力をしなければいけない。その際、左は共産党まで含めるべきだ。共産党もわずかに残った左翼利権とプライドを守ることばかりにきゅうきゅうとしている場合ではない。本当の意味での政界再編への動きはまったくない」

 追い込まれた沖縄の人々は、政府に強い「ノー」を突きつけた。本土はこのまま、原発事故をなかったことのようにして原発回帰路線を容認し、集団的自衛権を行使して戦争する国へと突き進むのか。

 無関心はもう、やめよう。

 「安倍政権の2年間を判断できない人は、おバカさんってことになっちゃう。どんな国を後の世代に残すことになるのか、真剣に考えるべきだ」

●しらい・さとし

 1977年東京都生まれ。文化学園大助教。専攻は政治学・社会思想。著書に「永続敗戦論-戦後日本の核心」(太田出版)。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈5〉「世界からかけ離れ」伊勢崎賢治さん
2014.12.03 12:38:00
https://www.kanaloco.jp/article/81171/cms_id/114522
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5_0775021b19e35e2260cc05ac764792c_2 伊勢崎賢治さん

 

 血で血を洗う紛争の現場を知る東京外国語大大学院教授、伊勢崎賢治さん(57)の目には、こう映る。

 「武力こそ行使していないが、米国の求めに応じて自衛隊をイラクに派遣したのは集団的自衛権の行使と実質的に同じ。2003年の時点で憲法9条の意味はほとんど失われた。そしてこのたびの解釈改憲によって最後のタガが外れ、9条は骨抜きにされた」

 歴代内閣が踏襲してきた憲法解釈を百八十度転換させ、集団的自衛権の行使容認に踏み切った安倍晋三首相。もたらされる変化を憂う。「平和国家のイメージは失われる。自衛隊員が海外で人を殺し、殺されることにつながる」

 そして続けた。「総選挙では、この大きな変化の是非を争点にするべきだ」

 

■現実離れ 

 国連スタッフや政府代表として紛争地域に乗り込み、武装解除という難題に向き合ってきた。自称に自負と自戒がにじむ「紛争屋」として残念に思うのは、世界の潮流からかけ離れた議論しか行われていないことだ。

 集団的自衛権を必要とする根拠として政府が示した15事例は「どれも個別的自衛権と国連を中心とした従来の措置で対応できる。あえて憲法解釈まで変更する必要はない」。機雷掃海や米国に向かう弾道ミサイルへの対応、米艦船の防護など国家間の紛争を想定するものがほとんど。「先進国が懸命に取り組んでいるのはテロとの戦い。前提が荒唐無稽な上、国際社会の関心からほど遠い」

 ため息が続く。「テロとの戦いで大きな力となるのは非武装の自衛隊と平和国家としての日本のイメージ。いずれも安倍首相が失わせようとしているものだ」。現実との乖離(かいり)が意味するものは何か。

■発想転換 

 失敗に学び、変化した米国の対テロ戦略に伊勢崎さんは注目してきた。

 アフガニスタンは憎悪の悪循環のただ中にあった。「傍若無人で侵略者たる米国に家族や仲間を奪われ、テロリストたちは自らの存在理由を懸け、爆弾を抱えて襲いかかっていた」。そうして民衆の支持を得て、社会に溶け込み、むやみに攻撃すれば民衆が巻き添えになり、敵意は拡大していく。

 「いくら兵力を増やしても米国は勝てなかった。そこで発想の転換がなされた。テロの温床を生み出さず、テログループが住みにくい平和な社会づくりに主眼が置かれるようになった」

 そこに非武装の自衛隊の活躍の場があると考える。

 成功体験がある。03年、米軍の支援を受けてタリバン政権を倒した地元軍閥に武装解除を掛け合った。混乱に乗じ、すでに内戦を引き起こしていた軍閥には北大西洋条約機構(NATO)も米軍も手を焼いていた。

 丸腰で軍閥の幹部に会い、武器を捨てるよう求めた。すると「ジャパンはすごいな」と親しげに声を掛けられた。

 「日本は日露戦争でロシアに勝ち、第2次大戦で米国に負けた。米国にひどい目に遭わされたイスラムの人たちは、日本に勇猛な被害者という印象を持っている。われわれの痛みが分かる唯一の国だと。大きな誤解なのだが」

 結局、武装解除は「日本に言われたら仕方ない」と首尾よくいった。日本の軍隊がアフガンの人々を傷つけていないことが大きかった。不戦を誓う9条がもたらした国益だった。

 米軍幹部からは「日本は美しく誤解されている」と言われたが、「世界中で戦争をして嫌われてきた米国にはできないこと。そこに日本の役割がある。9条が武器になる」。

 それもしかし、集団的自衛権が行使され、武装した自衛隊が戦闘に加わった途端に失われる。

■自衛意識 

 落胆は深い。総選挙を前に論じられるのは賃金アップ、雇用拡大、アベノミクスの是非といった国内経済の問題ばかり。「国際問題に無頓着な国民の意識も影響しているのではないか」

 テロとの戦いに関心を持ってほしいと市民集会で呼び掛けると、「震災復興も進んでいないのだから、国際協力より国内問題を重視すべきだ」といった意見が聞かれた。

 発言者は「昔ながらの平和運動を担ってきた年配の人だった」。

 諭すように反論した。

 「日本のものづくりに使われているレアメタルや宝石店に並ぶダイヤモンドの多くはアフリカの紛争地で採掘される。日本から流れ込む資金は腐敗を生み、紛争を生み出す一因になっている。国際的な問題を無視して日本だけでは生きられない」

 世界の中の日本という意識の欠如。そして「自衛」の響きが持つ危うさをひしと感じる。

 「あらゆる紛争の現場に戦意を育む民意の形成があった。人々は平和を欲するからこそ、平和を守るため、自衛の名の下に戦争を起こす。いまの日本には、ネットをはじめとして好戦的な主張をしても構わないという風潮があり、特定の民族への憎悪をあおるヘイトスピーチもみられる。もう、戦争間近なんじゃないかと思う」。だからこそ力を込める。「大切なのは敵をつくらないことだ」

 では、集団的自衛権の行使容認に踏みだした安倍首相は、この国をどの方向に導こうとしているのか-。

 しばし腕を組み、答えた。

 「解釈改憲で9条を骨抜きにした先にある本音は憲法改正だろう。自主憲法を制定し、日本を自立した国にする。そうしないと男がすたる、と。それ以外にしっくりとする答えはない」

 そう口にして、やはり首をひねるのだった。

 「米国からの自立という意味では、沖縄の基地負担を軽くするといったさまざまな発露の仕方がある。なのに9条だけに固執している。いずれにしろ、国際社会や国益を冷静に分析した結果ではないのは明らかだ」

 いせざき・けんじ 1957年東京都生まれ。東京外国語大大学院教授。国連PKO上級幹部や日本政府の特別代表として東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンで武装解除を指揮した。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈6〉 荒廃照らす 歴史認識 関東学院大林博史教授
2014.12.04 11:49:00
https://www.kanaloco.jp/article/81212/cms_id/114674
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6_fba0be804e1c5b48f0fb82ab96079c8_2 関東学院大林博史教授

 

 時代が右へ右へと傾けば、右にあったものも真ん中から左へ寄って映るようになる。それにしてもどこまで傾いていくのだろうか、と関東学院大教授の林博史さん(59)は暗然となる。

 「河野洋平があれだけたたかれる。自民党総裁も務めた保守政治家が、だ」

 官房長官時代の1993年、従軍慰安婦問題で旧日本軍の関与を認め、謝罪した「河野談話」をめぐるバッシング。インターネット上では「サヨク」「極左」の文字さえ躍る。

 談話を継承するとしながら、その検証に着手した安倍晋三政権。第1次政権でも「強制連行を直接示す文書は見つかっていない」とする閣議決定を行い、慰安婦問題を矮小(わいしょう)化し、過去を正当化しようとする姿勢は一貫する。慰安婦研究の第一人者である林さんの目にはこう映る。

 「欧州では戦争犯罪を否定すれば極右と批判される。人権さえ否定しているという点では欧州の極右政党よりも右に位置しているともいえる。彼らでも人権までは否定しない」

 慰安所で軍人の性の相手をさせられたことに目を向けず、強制的に連れ去られたか否かを問題にする。結果、慰安婦が受けた性暴力は肯定され、人権は踏みにじられると考える。

 そして、タガは外れたかのようだとも感じている。

 韓国・済州島で朝鮮人女性を強制連行したとする「吉田証言」について朝日新聞が記事を撤回すると、安倍首相は「多くの人々が傷つき悲しみ、苦しみ、怒りを覚え、日本のイメージは大きく傷ついた。『日本が国ぐるみで性奴隷にした』との、いわれなき中傷がいま世界で行われている」と述べた。

 国際社会の批判を「いわれなき中傷」と言い切った。「河野談話を継承するというごまかしさえ捨て去り、慰安婦制度にいおて日本は悪くなかったと全面的に正当化しようとしている」。その見方は、海外から向けられる視線にも重なってもいた。

■時代に逆行
 フランスで開かれたシンポジウム。報告に立った林さんにパリ大の日本研究者は言ったという。「欧米でいま問題とみなされているのはロシアのプーチンと日本の安倍だ」

 国際社会でなぜ慰安婦が問題にされ、日本の姿勢が批判されているのかを知るべきだと林さんは訴える。

 「欧米先進国、つまり、かつての帝国主義国で植民地支配の責任が見直されようとしている」。背景にあるのがグローバル化の波。「移民も含めて国際化が進み、自国に旧植民地出身者が増えていく。共存していくために共通の価値観、歴史観が求められる。負の過去を解決しなければならないと、葛藤や対立を抱えながら努力が続けられている」

 女性の人権という視点から慰安婦問題への関心も高まる。「現在横行している戦時性暴力や人身取引は、20世紀最大の戦時性暴力で人身取引であった日本の慰安婦制度をきちんと裁いてこなかった結果だという認識がある。女性への人権侵害に歯止めをかけるため、総括と反省が求められている」

 安倍政権の姿勢はそうした潮流に逆行する。「欧米からみれば、過去の克服や人権への試みをすべてひっくり返そうとしているように映る。吉田証言によってうそが世界中に広まったという類いの話ではない」

 歴史学者として林さんは残念がる。「植民地支配の問い直しや女性の人権問題への関心の高まりがそうであるように、歴史認識の問題とは現状認識と未来をどうつくるかという問題だ。そうした認識が日本にはない。だから慰安婦問題も、韓国や中国がいつまでも批判しているから収まらないのだ、という程度にしか受け取られていない」

 慰安婦をめぐる強制連行じゃないから、当時は公娼(こうしょう)制度があったのだから構わないといった言説は、買春問題など女性の人権への日本社会の鈍感さを映し出してもいる。

■差別を反映
 慰安婦を正当化する。それは元慰安婦の女性をうそつき呼ばわりし、補償の金目当てだとさげすんでいるのと同じではないか。林さんは立ち止まる。

 「あしざまに被害者を罵倒するようなことを社会はなぜ受け入れてしまうのか。そういうことをする人はいつの時代、どこの社会にもいるだろう。だが、相手にされないのが普通ではないか。それが、相手にされないどころか政治家になり、支持されている。その頂点に安倍首相がいる。慰安婦についての知識などなくても、おかしいという感性があってほしい。これは人間性の問題だ」

 経済学部の学生を前に教壇に立つ。うつむく顔々が気になる。「将来の見通しに明るい希望がない。だから過去に日本の良いものを求めざるを得ないのだ」

 そこに重なる中国、韓国への差別意識。「中国に経済で抜かれ、韓国には電化製品で抜かれた。見下していたものに抜かれたという屈折した感情だ」

 やはり考え込む。「いまの日本社会で人権を守ろうと口にするむなしさはどうだろう。会社はそろってブラック企業。従わなければ首を切られ、非正規に置き換えられる。現実はこんなものだという諦めがある。だから買春があっても仕方がない。せいぜいかわいそうと思う程度。戦争なのだから慰安婦は必要だ、ことさら問題にすべきじゃないと堂々と語られる背景がここにある」

 現実は確かにそうだ。でも、それではよくない。皆が幸せに暮らせる社会をつくっていこうと語るのが政治家ではないのか。アベノミクスも誰もが共存し得る未来を照らし出してはいない。

 安倍首相は、それ以上のことを語ろうとはしない。「過去を正当化することでしか日本の誇りは得られないのか。過去の過ちを認め、反省し、克服することは誇れることだと思うのだが」

 はやし・ひろふみ 1955年神戸市生まれ。専攻は現代史、戦争・軍隊論。日本の戦争責任資料センター研究事務局長。昨年8月に吉見義明・中央大教授らとともに慰安婦問題の理解のためのサイト「FIGHT FOR JUSTICE 日本軍『慰安婦』-忘却への抵抗・未来の責任」(http://fightforjustice.info/)を立ち上げた。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈7〉現実見ぬ空疎な議論 拓殖大大学院教授・川上高司さん
2014.12.07 11:30:00
https://www.kanaloco.jp/article/81349/cms_id/115180
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7_562916e8d9ca898d9205c51bdd93987_2 拓殖大大学院教授・川上高司さん

 

 集団的自衛権の行使容認に賛成し、そのためには憲法改正も必要と説く。「保守」を自任する拓殖大大学院教授の川上高司さん(59)はしかし、声を大にして言う。

 「行使容認を閣議決定で行ったことに問題がある。日本は安全保障の分野で大きな一歩を踏み出した。本来なら国民の意向を問うべきだった」

 そしてめぐってきた総選挙。自民党が圧勝すれば、安倍政権は「集団的自衛権の行使容認の閣議決定」は国民に容認されたと解釈するかもしれない、との危惧を抱く。「アベノミクス選挙といわれているが、本当は集団的自衛権の選挙であるかもしれない」

■説明

 30年以上にわたり安全保障、国際政治学の世界に身を置いてきた。国防を考えるとは「日本がどうやって生きていくかを決めること」。そして、国民がその道を選択できるよう「政府は正しい情報を提供し、考えられる選択肢を示さなければいけない」と説く。

 ではこの夏、集団的自衛権の行使容認という「国のあり方を根底から変える」事案を決定する前の政府の態度はどうだったろう。

 「安倍首相は『集団的自衛権の行使を容認しないと日米安全保障条約が機能しない』と力説した。なぜ日米安保が必要なのか、あるいは日米同盟を解消し、米軍が日本から撤退した場合にどうなるのかといった議論を尽くさなければならなかった」

 では、例えば日本が自主独立という選択肢を選んだ場合、どのような事態が考えられるのか。「国防費を少なく見積もってもGDP(国内総生産)比の3%以上は増やさねばならなくなる。相当、国民に負担がかかるが、本当にそれでいいのか」

 日本列島を丸ごと非武装地帯にすればいいという意見もある。「北朝鮮、ロシア、中国など周辺国が核兵器を手放さない限り、難しい。核の抑止のため、いまは米国の傘を借りているという状態だ」

 日本が独自に核武装をしたらどうなるのか。「極論すれば米国も仮想敵国になる。あるいは中国やロシアとの同盟を選べば本当に国民はそれを受け入れるのか、といった徹底した論議が必要だ」

 あらためて強調するのは手続きの不当性。「政府は正確な情報を国民に届け、なぜ必要かという説明を尽くさなければならない。国民が『今ある日米同盟を結んでいるのが効率的で一番安定する』と納得して初めて、集団的自衛権の議論に行き尽く」。なのに、と語気を強め、「台頭する中国の脅威に後押しされて誕生した安倍首相は、危機感を強める世論を背景に必要な議論を飛び越え、行使容認を閣議決定で決めてしまった」と落胆する。

■手段

 基本に立ち返ってみる。「集団的自衛権の行使というのは、日本を守るためのものであり米国のためではない」。つまり、「集団的自衛権の行使容認は、日本防衛に米軍を巻き込むための手段」であるべきだ、と。

 集団的自衛権行使の必要条件として武力攻撃を受けた旨の「宣言」と支援の「要請」がある。しかし、事態が緊迫している場合、要請を行う時間的余裕はない。「北大西洋条約機構(NATO)条約や米韓条約など軍事同盟ではそれを見越し、協約書に集団的自衛権の適用条件が詳細に描き込まれている」

 だが、現在の日米安保条約には同様の取り決めがない。「領海のすぐ外の公海上で自衛隊機や艦船が攻撃を受けたとしても、米国が自動的に介入するという担保がない」。日米安保を修正しない限り、集団的自衛権行使が日本防衛に生かされることはない。

 一方で、日本が集団的自衛権の行使を要請された場合はどうだろうか。「もはや、断れない。米国から要請された集団的自衛権、国連の集団的安全保障要請に対しては、むしろ積極的に行使しなければならなくなるだろう」

 イラクやシリアで台頭する過激派組織イスラム国への対応など、国際社会に突きつけられた課題は少なくない。

 「集団的自衛権の行使容認や集団的安全保障への積極的な参加を決定したことに伴い、自衛隊は中東やアフリカに送られる可能性が高まっている。これまでのように他国の軍隊に守られている状態ではなく、敵や脅威と直接対峙(たいじ)することになる」

 非戦闘地域がいきなり戦闘地域になる危険性は高い。「政府は『自衛隊をすぐに撤退させる』と言うが、一緒に活動している他国軍を危機にさらす事態も想定され、簡単には撤退できないだろう。戦闘に巻き込まれる可能性も非常に高くなる」。テロとの戦いに巻き込まれることも否定できない。

■責任

 問いは再び、指導者の振る舞いへと向けられる。

 「オバマ米大統領をはじめ、一国の指導者は戦闘地域に赴いて兵士を鼓舞し、戦死者が帰ってきたら、迎えて、お国のために申し訳ありませんと家族に謝罪する。日本の指導者が同じような場面に直面する日は近いかもしれない」

 現実を直視してほしいと願うのは、政府だけではない。「1960、70年代に起きた安保闘争のようなことが起こらないのはなぜだろうか。自衛隊が戦闘地域に行き、死人が出て、彼らの夫や子どもの死に接して初めて問題の深刻さに気が付くのかもしれない」

 その時、その死が無駄ではなかったと納得できるか、何のために死んだのか、と悔恨に打ち震えることになるのか。いずれにしても首相の責任は重い。ただ、無関心を決め込む国民に首相を責める資格はありや、なしや。

 各紙の世論調査では自民党は300議席を超え、共同通信社の調査では単独で議席の3分の2を占める情勢となっている。川上さんは驚きを隠さない。「想定外の数字。30~40議席減らし、改憲は先送りし、地道に安全保障関連の法案の修正を進めるというのが当初の見立てだった。解散の理由は一般の有権者にはよく分からないので、評価されないと思っていたから。安倍政権は憲法改正を一気にやるかもしれない。これ以上のタイミングはないと思うはずだからだ」

 かわかみ・たかし 1955年熊本県生まれ。拓殖大海外事情研究所所長・教授。防衛庁防衛研究所主任研究官などを経て現職。著書に「日米同盟とは何か」(中央公論新社)、「アメリカ世界を読む」(創成社)など。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈8〉:見せ掛けの経済政策 経済評論家・内橋克人さん
2014.12.08 12:00:00
https://www.kanaloco.jp/article/81378/cms_id/115319
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8_75a0c03ae055acc84802065922c8096_2 内橋克人さん 

 

 「この道しかない」。この国のトップは今、全国各地で声を張り上げる。長く続くデフレから脱却するためには、自らの名前を冠した経済政策しかないのだと。だが鎌倉に住む経済評論家から言わせれば、「国民をなめている」。なぜなら「安倍政権の経済政策は『国策フィクション』」だからだ。

 内橋克人さん(82)はおもむろにペンを持ち、紙に数字を書いていく。「74兆円 70兆円」

 アベノミクスの第1の矢と言われる金融政策。日銀は2013年4月、「異次元」と評される大規模な金融緩和に踏み切った。市場は歓迎し、先行きへの期待感から急速に円安株高が進んだ。「国民は、金融緩和で市場に金がジャブジャブ流れたと思っている」。市場に金が出回れば、株価が上がり、資産価値も上がる…と。だが、それは「『これからもっと良くなる』と国民が“期待”を持たされているだけだ」。

■天空回廊

 内橋さんは、こう説く。13年3月末からの1年間で、日銀が国債を買い上げて供給した通貨(マネタリーベース)は74兆円増えた。だが、民間の金融機関が日銀に設けている口座の当座預金(日銀当座預金)も70兆円増えた。つまり差額の4兆円は市場に流れたが、70兆円は個人や企業への貸し出しに回らず、口座に眠ったまま。ブタ積みという。「マネタリーベースの額をみれば、4兆円など微々たるものだ」

 それでも、まだいい。少額とはいえ、市場に金が流れたのだから。内橋さんはその下に、もう一つ数字を書き加える。「118兆円 120兆円」。今年10月末までの1年半をみると、マネタリーベースは118兆円増加。だが日銀当座預金は120兆円も増えた。「金融緩和と叫びながら、実体経済に金は流れず、逆に市中から2兆円の金を吸い上げた計算。これでどうして景気が良くなるのですか?」

 国民は幻想を見させられている。「首相の周囲にいる経済ブレーンは、『市中に金がジャブジャブ流れているというイメージを市場に送り、国民の夢をあおれば経済は好転する』と思っている。人工インフレ論者、つまりリフレ派の仕掛けたトリックです」

 政府、日銀、金融機関で回る巨大マネー。国民の頭の上をめぐる「天空回廊」。富裕層が富めば、貧困層にも自然に富が滴り落ちるという、政府の説く「トリクルダウン」などはない。「雨は、横の樋(とい)にたまり、縦の樋に移って、大地に滴り落ちるもの。だが安倍政権はその縦の樋を途中で切断し、そこに栓を詰めた」。あふれるほどの水がたまるのは上部(大企業)だけ。そこでも内部留保という名の氷づけが起きている。「アベノミクスには、政権がなすべき最大のミッションの『所得再分配』政策が完全に欠落している」

■思い込み

 実体経済に資金が回らない、フィクションの“効果”は当然、長くは続かない。消費増税後、国内総生産(GDP)速報値は2期連続でマイナス。黒田東彦総裁は追加の金融緩和を発表し、安倍晋三首相は消費税率10%への引き上げの先送りを決めざるを得なかった。それでもなお、自らの経済政策に自信を持つ首相。「気付いていないのでしょうね。『アベノミクスは大成功』と本気で信じ込んでいる。周囲を取り巻く思想的同調者の考えを“民意”と錯覚している。首相の思い込みと、真の民意との乖離(かいり)はますます大きくなっていく」

 “思い込み”の激しさは言動にも表れているとみる。「世界経済回復のためには、3語で十分です」。昨年9月、ニューヨーク証券取引所でスピーチした首相は、自信たっぷりにこう続けた。「Buy my Abenomics」(アベノミクスは買いだ)。内橋さんは指摘する。「米国のレーガン政権の経済政策『レーガノミクス』も、英国のサッチャー政権の経済政策『サッチャリズム』も、メディアや後世の人々が名付けたもの。2人とも自らそう叫び回ったわけではない。自己顕示欲の違いでしょうか」

■符合

 有権者が気付くべきことは他にもある。厚生労働省は10月31日、年金積立金の投資配分を定める資産構成割合(基本ポートフォリオ)の見直しを認可した。その内容は国債など国内債券を大幅に縮小させ、よりリスクの高い株式の割合を国内外合わせて50%まで引き上げるものだ。同じ日、日銀は追加の金融緩和を決定。国債の購入額を年間50兆円から80兆円に拡大すると発表した。

 厚労省管轄の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が売却したい国債は30兆円分。日銀が増額したのも30兆円。「この二つは、ぴったり符合している」。株式市場を活性化させるため、国民の年金を活用しようとしているのではないか。内橋さんは憤る。「再びリーマン・ショックが起これば、国民が年金を手にすることはできなくなる」

 声を上げても詮ないことです-。東日本大震災の被災地で講演した際、被災者がこぼした一言が今も胸を締め付ける。だが、それでも声を上げ続けなければ、と感じている。「政権がいま何をしているのか。トリックやレトリックに惑わされず、有権者は徹底的に見抜かなければいけない」

 うちはし・かつと 1932年7月生まれ。神戸市出身。神戸新聞記者を経て経済評論家。著作に「匠(たくみ)の時代」「原発への警鐘」「共生の大地」など。「鎌倉九条の会」「さようなら原発1000万人アクション」の呼び掛け人を務める。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈9〉アベノミクス停滞の理由は 経済学者・水野和夫さん
2014.12.09 12:00:00
https://www.kanaloco.jp/article/81403/cms_id/115462
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9_0505c5b70886ffb42b152ecc02d4a8e_2 水野和夫さん

 

 アベノミクスはそもそも無理筋、と断じる。第1の矢、第2の矢と、いずれもが思うような効果を生んでいない。

 「その結果が、まさに安倍晋三首相が自ら表明した消費増税先送りの根拠である『GDPマイナス1・6%、2四半期連続のマイナス成長』だ」

 経済学者の水野和夫さん(61)の酷評は続く。

 「金融緩和と積極的な公共投資で景気が回復し、成長へと向かうという筋書きが通用したのは20年前のことだ」

 インフレ目標2%を設定し、第1の矢、つまり異次元の金融緩和に打って出たアベノミクス。だが、ヒト、モノ、カネがたやすく国境を越えていくグローバル資本主義が加速した今、こうした手法はむしろ、傷を負った日本経済に塩を塗り込むような施策でさえあると指摘する。

 第2の矢、積極的な財政政策とは公共投資を増やすことで景気を刺激する施策。それも空振りに終わる。この20年間で建設市場は様変わりし、公共事業を受け止めるだけの建設労働者はいなくなっていたからだ。

 国策として公共投資を減らし続け、1990年代後半をピークに半減させた。建設技能労働者も97年をピークに120万人近く減り、2013年には338万人となった。突然工事を増やされても請けきれない。蛇口を開け閉めするかのような施策の転換で、建設労働者数と工事量の需給バランスは崩れ、人件費は高騰、工事を発注しても受注できる業者が出ずに入札が不調となる案件が急増している。

 水野さんはこの不条理に「もはやダッチロール状態。同じ自民党が行っている施策として連続している点もあるが、まったく一貫性がないものが混在している。結局は国民生活が振り回される」と嘆く。

 さらに、金融緩和も財政出動もともに見込んだ効果とは逆に、日本経済を一層疲弊させる可能性が高いと指摘する。

 「金融緩和のあとバブルが崩壊すれば、企業はリストラと称して賃金を引き下げ従業員を減らす。積極財政で景気が回復しても過剰設備を維持するために賃金が抑制されることになる」。いずれにしても賃金が犠牲になり、景気は上向かない。

 「投じられた税金は1%以下の富裕層の利益となり、バブルがはじけた後処理もまた税金で補填されるため、そのツケは国民全体へ押し付けられることになる」。アベノミクスの継続はすなわち、所得格差を拡大し、中間層を貧困層へと落とし込むことになる。

■賃金は上がらず

 一方で安倍政権が誕生した12年12月以降、株価は上昇を続け、リーマン・ショック前の最高水準1万8000円台に手が掛かる。一気に円安に振れ、円ドル相場は7年4カ月ぶりに120円をつけた。輸出産業の大手を中心に業績は着実に回復している。

 デフレ脱却まであと一歩-。そんな呼び声にも説得力があるのではないか。

 水野さんはこうした数値を一刀両断する。

 「株価が上がったといっても、日本の株式市場へ投資している約半分は外国人。つまり利益の半分は海外へ流れている。さらに言えば、株価が上がっても消費にはつながらない。そんなことで消費が増大するとすればそれこそバブルだ」

 「安倍首相は『賃金は上がった』と言うが、それは総額のこと。逆に1人当たりの賃金は下がっている」

 1人当たりの賃金を度外視して、総額で成果を強調する。そこにアベノミクスの本質をみる。

 「これは、安い賃金がさらに削られているということにほかならない。インフレ誘導で物価は上昇し、家計はさらに圧迫されているのが現実。これを是とするアベノミクスは、大企業とお金持ちがもうかればいいという経済施策ということになる」

■資本主義の終焉

 ではなぜ、アベノミクスは本来見込んだ効果が表れないのか。

 「それは資本主義自体がもう終わりを迎えようとしているからだ」。これは地球上にフロンティア(未開拓地)がなくなった、という根本的かつ致命的な理由によると説く。どういうことか。

 水野さんの理論はこうだ。金利が年率10%であれば、100万円は1年後に110万円に増える。その資金がかき集められ、かつてであれば中国やブラジルといったフロンティアへ巨額投資され、運用によって増殖し、投資家へ利回りとして還元される。

 投資による開発で途上国だったその国もやがて新興国となり投資する側に立つ。次はインドだ、まだアフリカがある、と投資、運用、還元の循環を繰り返してきたわけだが、「ついに地球上にそのようなフロンティアはなくなった。地理的・物的空間の限界を迎えたということ」。

 金利は2%を下回ると、資本家が満足する利回りが得られなくなるとされ、日本の10年国債の金利はこの20年近く2・0%以下が続いている。超低金利が続き、資本の自己増殖は止まった。

 水野さんは著書「資本主義の終焉と歴史の危機」で記している。

 〈インフレ目標や成長戦略に猛進するのは、薬物中毒のごとく自らの体を蝕んでいくだけ〉

 〈18世紀から築き上げてきた市民社会、民主主義、国民主権という理念までもが、グローバル資本主義に蹂躙されているのです〉

 「その意味でアベノミクスは百八十度間違っている。『より速く、より遠くへ、より合理的に』というかつての理念を逆回転させ『よりゆっくり、より近くへ、より曖昧に』へと転じなければならない」

 経済学者から放たれた、根源的かつ理念的な言葉が、迫り来るその時の重大さを物語っていた。

○みずの・かずお

 1953年愛知県生まれ。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストなどを経て2010年9月から内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)など歴任。13年4月から日大国際関係学部教授。著書に「資本主義の終焉と歴史の危機」(集英社新書)。横浜市在住。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈10〉 対米追従から脱却を 元外務官僚の孫崎享さん
2014.12.10 12:10:00
https://www.kanaloco.jp/article/81452/cms_id/115636
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10_ec40ef10f2c0802cd1bf09f113fafb_2 孫崎享さん

 

 歴代首相最多となる49カ国をこの2年で訪問した成果を強調する安倍晋三首相だが、孫崎享さん(71)には空虚に映る。「政権延命のためのうわべ外交だ」。外務官僚として長年外交の現場に身を置いてきただけに、向けるまなざしはシビアだ。

 2年半ぶりに実現した日中首脳会談にも欺瞞(ぎまん)をみる。第2次安倍政権では初の首脳会談が北京で実現したのは、衆院解散が正式表明される8日前の11月10日。自らの靖国神社参拝で日中関係悪化を招いた安倍首相だったが、「関係改善の一歩になった」と胸を張ってみせた。

 沖縄県・尖閣諸島をめぐり、双方の認識のずれが依然深いことが明らかになったのは会談後だ。

 合意文書には「双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年、緊張状態が生じていることについて異なる見解を有している」とあり、一見すると領土問題の存在を前提にしているように読める。

 だが、日本側は「異なる見解」とは、中国公船の日本領海侵入や東シナ海の防空識別圏の設定、一方的な東シナ海ガス田開発などを指しているとして、「尖閣諸島の領土問題は存在しない」という従来の見解を主張する。

 孫崎さんは「領土問題の存在を認めさせたい中国に対して譲歩するかのような表現でだました。合意文書は首脳会談を実現させるためのうそだった」と断じ、「衆院解散をにらんだ安倍政権の戦略。安倍首相が悪化させた日中関係が批判の的となるので、その前に不安要素を取り除きたかったのだろう」と解説する。

 代償は大きい。「中国の信用を失ったに違いない。もう、首脳会談は実現しないのではないか」

 ダボス会議や日本の首相として初となるオーストラリア連邦議会での演説、原発の建設技術の売り込みで存在感を示そうとする姿勢にも「ほとんど国益をもたらしていないし、各国と新しい関係を築けていない。一過性のアピールを好む政権の特徴が外交によく表れている」。再開した拉致問題をめぐる日朝協議も「支持率を意識したパフォーマンスに見える」。

■便 乗

 孫崎さんに言わせると「安倍政権は対米追従路線をひた走る」。10日午前0時に施行された特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の行使容認、米軍普天間飛行場の辺野古移設-。その淵源(えんげん)は小泉政権時代にあるとみる。

 2005年の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で合意された「未来のための変革と再編」と題した文書。「国際的な安全保障環境の改善のための取組」が重点分野に位置付けられ、「国際的な安全保障環境を改善する上での二国間協力は同盟の重要な要素。(中略)実効的な態勢確立のために必要な措置をとる」「共有された秘密情報を保護するために必要な追加的措置」「(普天間飛行場の)代替施設は、(中略)沖縄県内に設置しなければならない」といった文言が並ぶ。

 だが、「当時の日本政府は文書の意義をあまり説明せず、注目もされなかった」。その後の福田康夫内閣は集団的自衛権の行使容認を見送り、民主党への政権交代後も鳩山由紀夫首相は普天間飛行場の移設について「最低でも県外」の見解を示すなど、合意にあらがう動きはあった。

 追随しない方策も考えられたが、安倍首相はこの路線に便乗したのだと孫崎さんは言う。「日本には安全保障政策に関する戦略はないから、米国に従わざるを得ない。もし、のまないようなら態度を変えられてしまうので、政権を長続きさせたいと思えばなおさら、米国に従うのが得策」と実情を明かす。

 そうである以上、日中関係の悪化は安倍政権にとって都合がいいということになる。「中国が攻撃を仕掛けてくるかもしれないという状況になれば、日米の安全保障政策の強化は正当化される。少なくとも、そういった方向に世論が高まる。だから、わざと中国との関係をこじらせているのではないかという疑念さえ抱いている」

■国 益

 外交官としての信条があった。「外務省の役割は、2割が予算配分と人繰りで、国民と諸外国を結び付ける橋渡しが8割」。これに照らせば「今の日本は、国の都合で国民が海外で活躍する機会を奪っている」。念頭にあるのはやはり冷え切った中国、韓国との関係だ。

 日本の輸出入額は06年以降、米国が占める割合が減り続けていたが、12年に増加に転じ、安倍政権発足後も微増した。前回の総選挙で自民党が交渉参加の反対を掲げた環太平洋連携協定(TPP)が合意に向けて進んでいるのは象徴的な事例だ。

 孫崎さんは「安全保障政策を米国に依存しているから、経済活動において米国に配慮せざるを得なくなり、東アジア圏での市場拡大が進まない。食料品の品質や安全に問題がある中国では、信頼性が高い日本の製品や農産物は飛ぶように売れる。東アジアの市場を拡大した方が日本経済は発展する」と言い切る。

 経済の東アジアシフトは安全保障政策にも通じるというのが持論だ。「日本を攻撃したら自国の経済が滞るという状況をつくれば、攻撃はしてこない。新たな安全保障政策となる」

 そのためにも尖閣諸島や竹島などの領土問題の解決が必要だと説く。鍵となるのが「棚上げ合意」。「互恵関係の構築を大事とし、領土問題については互いに見解は異なるまま解決を先送りする」という考え方だ。

 「ポツダム宣言には領土問題となっている竹島や北方領土は日本の国土として明記されていない。尖閣諸島は日中双方の言い分に根拠がある。日本固有という歴史認識は間違っている。感情論よりも国益を優先させるべきだ」と苦言を呈す孫崎さん。「戦後レジームからの脱却」を標榜(ひょうぼう)する安倍首相について、こう切って捨てた。「対米追従の枠組みを強化しているという意味では、『脱却』からは逆行している。信念は全く感じられない」 

 まごさき・うける 1943年旧満州生まれ。外交評論家、東アジア共同体研究所所長。66年外務省入省。英国、ソ連、米国、イラク、カナダ勤務を経て駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任。著書に「戦後史の正体 1945-2012」(創元社)など。

【神奈川新聞】

 

↓辺見庸さんの記事は別立てで保存しました

安倍政治を問う〈11〉 目を見開き耳澄ませ 作家・辺見庸さん
2014.12.14 09:30:00
https://www.kanaloco.jp/article/81601/cms_id/116317
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圧勝の陰で〈上〉 9条 深まらぬ議論危惧
2014.12.15 03:00:00
https://www.kanaloco.jp/article/81628/cms_id/116413
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77e827572a365228d73c406ee79d1a32_2 安倍政権の安全保障政策に危機感を口にする鷹巣さん=座間市内

 

 地域の子ども会の集いから帰宅した14日夜、テレビをつけると自民党候補者の喜ぶ姿が大写しになった。画面のテロップが「自民圧勝」「自民・公明 3分の2に届く勢い」と大勢を伝えた。

 座間市の鷹巣直美さん(38)の胸が波立つ。

 「選挙という国民の声を聞く機会をつくった安倍さんに感謝する思いもあったが、その気持ちはかげった」

 国を守るという大義の下、特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の行使容認に踏み切った安倍政権に危うさを感じてきた。圧勝で強引さに拍車が掛かるのでは、と不安を覚えずにはいられなかった。

 戦後日本の平和を支えた憲法9条に「ノーベル平和賞を」とインターネットで呼び掛ける運動を始め、今秋、9条を保持してきた国民全体が候補にノミネートされた。一人の主婦が始めた運動の広がりは国内外から注目を集めたが、鷹巣さんは今、無力感にさいなまれる。

 衆院解散が決まり、やはりネットで署名集めを始めた。タイトルは「『戦争はやめてほしい』の声を集めるため、まずは『集団的自衛権の行使容認に反対』することで一致して選挙協力をしてください」。9日間で集まったのは562人分。「選挙でこれだけ票を集められる自民党はやはり、すごい」

 2児の母。平和賞運動を思い付いたのも子どもたちの未来を思ってのことだった。ネットでは「平和主義を隠れミノにした売国奴」といった中傷や非難を受けたが、ふと気付いた。「戦争をしたい人なんていない。思いの根っこは同じなのに、交わらない議論を続けている」

 集団的自衛権をめぐる議論がまさにそうだと思った。「抑止力としてそれを手にするか、抑止力として放棄し続けるか。賛成の人も反対の人も、戦争をしたくないという点は同じなはずだ」。行使容認は国民的議論を経ず、閣議決定による憲法解釈の変更によって決まっただけに、論戦が選挙戦でなされなかったことが残念でならない。

 来年は集団的自衛権行使に向けた法改正の議論が国会で始まる。9条はこれ以上骨抜きにされるのか。

 自民党が得た議席も有権者が投じた票が積み上がったものであることを踏まえ、鷹巣さんは言う。

 「政治家も個人の信条思想だけでなく、集団的自衛権が必要という大勢の声を聞いているから、使命感や正義感、責任感で『国民を武力で守らなきゃ』と凝り固まってしまうのだろう。そんなことは望んでいないという声も多くあることを示し、不安を取り除くように思いを伝えないといけない」

 続く言葉は母の祈りにも似て-。「『戦争は嫌だ』と表現していくことはささやかでも続けられる。自民党とか何党とか関係なく、皆の心の中にあるはずの『戦争はしたくない』という良心を信じたい」 

【神奈川新聞】

 

圧勝の陰で〈中〉原発 国側の威圧露骨に
2014.12.16 12:51:00
https://www.kanaloco.jp/article/81713/cms_id/116675
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Aabb1e7a20e170e484c111c95765ba4b_2 避難者の交流イベントの打ち合わせをする小畑さん=横浜市神奈川区のかながわ県民センター

 

 独裁、裏切り者、圧力、恐怖-。穏やかななまり口調からどぎつい言葉が次々と飛び出す。「政府の言うことは絶対で、国民は従うしかない。そんな独裁政治が続くような気がしてならない」。自民党圧勝の結果に小畑まゆみさん(55)はこぼした。

 仮住まいの葉山町から車で約4時間。福島県富岡町の自宅は東京電力福島第1原発から8キロの居住制限区域にある。立ち入る際は町役場で線量計測器を借り、防護服に身を包む。

 11月に帰郷し、驚いた。区域のそばを通る国道6号で警察官が防護服を着ないで道路警戒に当たっていた。「バイクで通るのも車の窓を開けるのも許されない道なのに」。自宅近くの富岡町総合運動場の放射線量は毎時3~4マイクロシーベルト。神奈川の約100倍の数値だ。「あの警察官の姿を県外の人がテレビで見たら『もう福島は安全だ』と思う。『原発事故は収束した』とアピールしたい国側の思惑が透けてみえる」

 「圧力」はここ神奈川でも感じる。この春、いわき市から2人の子どもと小田原市に自主避難してきた母親と知り合った。学校給食に福島市産の米を使うことに不安を感じ、反対する活動を続けていた。「でも、理解を得られず孤立してしまったと聞く。国や自治体の決定に異を唱えただけで『裏切り者』とみなす風潮があるのでは」

 福島を離れて神奈川で避難生活を送っているのは約1900人。地域住民と交流し、励まし合う場をつくりたいとイベントを企画する。

 その会合で、アベノミクスの成果を強調する安倍晋三首相のことが話題に上った。「いわき市では除染作業のために労働者が集まり、バブルのようなにぎわいと聞く。原発事故で雇用を生み出すという皮肉な話だ」

 避難者の一人が「現実を見ろ」と声を荒らげた。

 「事故処理とどう向き合うか議論もせず、事故がなかったかのように再稼働を進める。臭いものにふたをするように都合の悪い話はせず、自らに都合のいい情報だけを流す。強引で卑劣なやり方だ。俺らはだまされねぇ」

 自民圧勝となった投開票から一夜明けた15日、会見した安倍首相は「安全性が確認された原発は地元の理解を得つつ、再稼働を進めていく」と明言した。

 戦後最低、52・66%(小選挙区)の投票率で再び得た、自公合わせて3分の2超の議席。小畑さんがかぶりを振る。「福島では選挙は全く盛り上がっていなかった。『何を言っても変わらない』といった諦めの雰囲気が漂っていた」

 虚無感が胸を襲う。それ以上に恐怖感があるという。

 「圧勝したことで安倍政権はより思うままに振る舞うだろう。声を上げ、意思を示していかなければ、自分たち避難者の存在さえも消し去られ、ないものとして扱われていくかもしれない」

 原発事故被害者として背負わされたそれが宿命などとは思いたくないが、あらがい続ける覚悟を小畑さんは新たにする。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う(12) 地方創生に潜む危機 京都大大学院教授 岡田知弘さん
2014.12.16 13:15:00
https://www.kanaloco.jp/article/81712/cms_id/116669
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12_769d20d91e45d3b75e0f32d155d0b2_2 岡田知弘さん

 

 安倍晋三政権が掲げる「地方創生」で地方自治の根幹が揺らぎかねない-。そう危惧を抱く京都大大学院の岡田知弘教授は「そもそも上から目線ではないか」と提起する。「『地域』ではなく『地方』という言葉を使うのは、中央、すなわち東京を中心に据えた発想。『再生』とせず『創生』を掲げるのは、これまでとは違う地域をつくる意図があるからに他ならない」

 そこに見え隠れする、「選択と集中」の名の下に地方の中核都市への予算配分と機能強化を図り、ひいては自治体を集約しようとの意図。総選挙の勝利で長期政権への足掛かりを築いた安倍首相が見据えるのは、財界が「究極の構造改革」として待望する道州制の導入であり、その先には地方分権に逆行する中央集権的な「新たな国のかたち」が浮かび上がっている。危惧の本質はそこにある。

 安倍首相が衆院解散前の成立にこだわった地方創生関連2法の一つ、「まち・ひと・しごと創生法」の第2条はうたう。

 〈結婚、出産又は育児についての希望を持つことができる社会が形成されるよう環境を整備〉〈地域の特性を生かした創業の促進や事業活動の活性化〉

 多くのマスコミが来春の統一地方選に向けた政権のアピール材料とみた。「新たな交付金の創設などに伴うバラマキはあってはならないとの論調が目立ったが、それは本質的な問題ではない」。ここに至るまでの周到な準備、巧みな世論形成の仕掛けにこそ目を向けるべきだと岡田教授は強調する。

 流れをつくったのは、2040年に全国の半数近い896市区町村が消滅する可能性があるとした日本創成会議の試算だ。岩手県知事も務めた座長の増田寛也・元総務相の名から「増田リポート」と呼ばれる。地方に住む20~30代の女性の大都市圏への流出がこのまま続けば、出生率が回復しても人口が大きく減るという衝撃的な内容で、消滅する市町村を名指ししたリポートは波紋を広げた。

■トリック

 発表されたのは消費税増税から1カ月がたった5月8日。5日後の13日に経済財政諮問会議の「『選択する未来』委員会」が公表した中間まとめに消滅自治体のデータが引用され、15日には安倍首相の諮問で人口減に対応する地方行政体制の検討を始めた地方制度調査会も議論のベースにしている。

 「自治体消滅論を政権の政策づくりに生かすため発表のタイミングを官邸と調整したのだろう。消費税増税の影響が広がり、アベノミクスの限界が表れてきたころに地方紙がセンセーショナルに伝えたことで人々の意識を自治体の消滅は避けられない、集約もやむを得ないという意識に向かわせた」

 増田氏は現政権に近い。総務相に就任したのは第1次安倍内閣が改造を行った07年8月。前任の総務相は現官房長官の菅義偉氏だった。政府の「まち・ひと・しごと創生会議」の有識者の1人として、自治体消滅を前提とした議論をリードしてもいる。

 こうした背景も踏まえ、岡田教授は「消滅論は危機感をあおる作為的なシミュレーション。ショック・ドクトリンだ」と問題視。その「トリック」を解き明かす。

 「推計の基にした2005~10年の5年間は大都市への人口移動が比較的進んだ時期。しかも、東京への集中の傾向が最も高い水準で続く前提で試算し、若い女性が半減するから市町村が消えるという結論を導くのは論理的に無理がある」。さらに「東日本大震災を契機とした田園回帰を考慮していない。原発事故の影響、首都直下地震への不安を背景に地方へ移り住む人の流れが出てきている。過疎地の典型とも言われた島根県の中山間地でも若い人が増えている」。

 こうした批判があるにもかかわらず、自治体消滅論が市民権を得つつあるのは「道州制導入への地ならしとして政権サイドが利用しているため」とみる。

 自民党は道州制推進本部を設け12年に基本法案の骨子案をとりまとめたが、道州制を導入すればさらなる市町村合併を迫られる恐れがあるとして地方の町村長らが反発。法案提出には至っておらず、12年の総選挙で「基本法の早期制定後5年以内の導入を目指す」とした公約も、今回は「国民的合意を得ながら進める」と「後退」していた。

 道州制実現が見通せない中、「基本法の制定による正面突破でなく、まずは消滅論で自治体を集約することへの抵抗感をなくそうとしている」と岡田教授は読む。

■こだわり

 導入へのこだわりは第1次安倍内閣当時からあった。「当時掲げた主な三つの施策のうち、国民投票法と教育基本法は反対がありながらも成し遂げた。積み残しになっていた道州制に今回は腰を据えて取り組むのではないか」

 自民党が目指す道州制の姿は、実現に向けた提言を繰り返してきた日本経団連の案ともほぼ重なる。現行の都道府県を廃止し、全国に10程度の道州を置くとともに、国の出先機関や公務員の数を減らす。浮いた財源を高速道路網などのインフラ投資に回し、グローバル企業が活動しやすい環境を整える。経団連はウェブサイトで、6兆円近くの財源が生み出されるとの試算をアピールしている。

 しかし、「こうした経済至上主義の発想で築かれた地域社会は、住民にとっては暮らしにくい」。一例として挙げる岐阜県高山市にその厳しい現実を見る。平成の大合併で9町村を編入し、市域は東京都とほぼ同じ約2千平方キロに広がったものの、住民は10万人を切っている。「市の周辺部になったかつての村では人口が4割も減って投票所が集約され、お年寄りは投票に行きづらくなった。地元市議も選出されなくなり、民意を示すこともできない」

 全国の市町村が3232から1700余りに減った平成の大合併で規模を広げた市町村では「住民の監視の目が届かず、災害状況の把握も遅れるようになった」。道州制では「そうした弊害がより顕著に表れる」とみている。

 検討されている道州制では、国と地方、あるいは自治体同士の二重行政をなくすため、市町村は医療や福祉、義務教育などの住民に身近なサービスに特化する一方、道州は経済振興、高等教育などを担う。国は外交や防衛、通商政策などを担当する。

 そこに岡田教授は「大企業が潤う形での富国強兵」に向かう危険を感じ取る。「国と自治体は水平的な関係ではなくなり、明治憲法下のような垂直的関係に戻ってしまう。国と地方が役割分担することで、例えば沖縄の基地問題は国の専権事項なので地方からもの申すことができない、という事態が起こりうる。これは戦争ができる国づくりにつながるものだ。憲法とともに地方自治は今、戦後最大の危機局面にある」

 おかだ・ともひろ 54年生まれ。専門は地域経済学。研究者や自治体職員、地方議員などが会員の自治体問題研究所(東京)の理事長。「『自治体消滅』論を超えて」(自治体研究社)を今月刊行。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈13〉海外メディアはどう見ているか
2014.12.18 14:00:00
https://www.kanaloco.jp/article/81798/cms_id/117095
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13_7bc3af228d39039b22e66c81046b57_2 ジョナサン・ソーブル記者(右)カーステン・ゲアミス記者

 

 自民党の圧勝に終わった総選挙の結果は海外メディアにどう映るのか。安倍晋三政権の2年間と先行きについて、日本を拠点に取材を続ける米国とドイツの日刊紙の記者2人に聞いた。

◇米ニューヨーク・タイムズ ジョナサン・ソーブル記者

 安倍晋三首相は私の大学時代の日本人の友人によく似ている。その友人は「世界で活躍したい」という気持ちが強く、英語が堪能なこともあって外資系企業に入社した。日本人の中には「日本のいろいろなところが嫌いで、外国の方が解放感があっていい」という人もいるが、彼は違った。「日本の素晴らしさを世界にみせたい」という思いに鼓舞され、そうすることが国際貢献になると信じていた。

 安倍首相の政策や言動からは国際社会で日本の存在感を高めたいという思いが感じられる。

 今はあるべき姿になっていないという思いの裏返しでもあろう。つまりコンプレックスだ。自信があれば自らを誇示する必要はないからだ。日米安全保障条約を改定し、対等な日米関係を目指した祖父の岸信介元首相の影響もあるかもしれない。安倍首相には劣等感が残っているのだろう。

 国際社会で日本が評価されないのは宣伝が下手だからだ、という人がいる。正しいことを言っているのに国際社会に理解されないのは、うまく説明ができていないからだ、と。それは錯覚だ。

 米ニュージャージー州で韓国系米国人が設置した慰安婦像をめぐり、日本人から「主張が受け入れられなかったのは、われわれの広報活動がうまくいかなかったからだ」という声を聞いた。だが、慰安婦問題が日韓関係をこじらせているということは米国でも知られている。米国人は韓国に肩入れしているわけではなく、両者の論争から一定の距離を置き、客観的にみている。

 外務省は広報活動予算を増やす方針だというが、そうした小手先の話ではない。問題は戦後処理について日本国内で議論がまとまっていないところにある。国内での意見がまとめられない限り、歴史問題は永遠に続くだろう。

 アベノミクスには世界が注目している。以前勤めていた英フィナンシャル・タイムズでは社説で日本の経済政策を取り上げ、ロンドンやニューヨークの証券市場でも話題になるようになった。世界的に不況が続く中、アベノミクスが機能するかどうか、一つの新しいモデルになり得るかどうか、興味があるからだ。

 来年は戦後70年を迎える。安倍首相が個人の信条として歴史認識にこだわり中国や韓国との関係が悪化するようなら、国際社会は日本に失望し、安倍首相のいう「誇り高き日本」は遠くかすむばかりだろう。

○02年来日。英フィナンシャル・タイムズ東京支局長などを務め米ニューヨーク・タイムズ特派員。カナダ生まれ。

◇独日刊紙 カーステン・ゲアミス記者

 日本外国特派員協会はこの2年間、毎月、安倍晋三首相に取材を申し込んできたが一度も実現していない。日程が合わないという理由だが、こちらはいくらでも調整すると申し出てきた。北朝鮮でさえ、外国人メディアの質問には答える。情報統制が激しい中国にいる同僚だって共産党幹部に取材する機会は与えられている。政府には説明責任というものがあるが、安倍首相は放棄している。

 外国特派員協会は厳しい質問や批判で知られる。だが、批判には意味がある。海外メディアから批判されるということは、その国の政策が全く理解されていないという裏返しだ。

 そもそも日本政府は非常に内向き。来日して5年間、閣僚にインタビューを申し込み続けた。40回を超えるが、返答があったのは3回だけで、それも取材を断るという回答だった。

 過去の歴史をもみ消し、日本が被害者であるかのように振る舞う安倍首相の言動も国際社会での日本の立場を孤立させている。

 従軍慰安婦をめぐる問題で日本政府は二枚舌を使っている。旧日本軍の強制性を認めた1993年の河野洋平官房長官談話を継承するとした一方、外務省のホームページから強制性に触れた文章を削除した。国内外で説明を使い分けている国を一体、どこの国が信頼するだろうか。

 日本のメディアも内向的で、権力に同化しているように映る。日本の国債の格付けが下がったニュースをメディアはどう報じたか。日本経済が危険な状況に陥っているにもかかわらず、扱いは小さいと感じた。

 同様に格下げとなったイタリアでは主要紙は1面で大々的に報じた。政策が機能していないことの表れで、国民に知らせる必要があると判断したからだ。

 ジャーナリズムは独立した機関として権力を監視する役割を担っている。日本のメディアはその意識に欠ける。最多の部数を誇る読売新聞は安倍政権をほとんど批判しない。もはや政府の広報紙だ。

 選挙の投票率は戦後最低だった。これでは安倍政権が信任を得たとはいえない。安倍首相は選挙後、憲法改正の意欲をあらためて示したが、日本人がいま最も関心があるのは歴史修正や憲法改正ではなく、経済の安定だ。

 政治家家系の安倍首相や麻生副総理は自らの家柄や祖先に誇りを持っているのかもしれないが、国民のために仕事をすることに誇りを持つべきだ。

○ドイツ日刊新聞「フランクフルター・アルゲマイネ」東アジア特派員。政治、経済を中心に執筆している。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈14〉「マニフェスト」は今
2014.12.18 18:00:00
https://www.kanaloco.jp/article/81802/cms_id/117114
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14_60940b799ba62c928a239d1bfda412_2 北川正恭さん

 

 民主党政権の失敗から今回の衆院選ではマニフェスト(政権公約)に対する有権者の期待や信頼が薄れ、候補者側も政策の実現の見通しや財源を明確にしない公約が目立った。マニフェスト後退の流れをどう見るか。提唱者の一人である早稲田大大学院の北川正恭教授(70)に聞いた。

 今回の選挙は安倍総理の作戦勝ちに見えるが、長期的に見れば本当に勝利と言えるかは分からない。

 総選挙は基本的には4年の任期を全うすることを前提に公約を掲げ、約束を果たすために任期いっぱい最大の努力をした上で、有権者に信を問うべきものだ。成熟国家である日本の総理ならば、正々堂々と王道を歩むべきだった。

 衆院の解散は総理の専権事項ではあるが、自分の都合の良いときに解散して政局運営をするようでは、政治全体が信頼を失う。

 総理が解散という伝家の宝刀を抜くときは、有権者に問題提起をし、世の中を変えるというワクワク感や、共感の渦が巻き起こらなければならない。

 しかし今回の解散にはなかった。戦後最低の投票率がそれを表している。大多数が消費増税延期はやむなしと思っている中で、総理がこれが争点だと声を張り上げているのは、むなしく響いた。

 この選挙が、国民の政治不信に拍車を掛けるのではないかと懸念している。

 安倍総理は2年前の国会の党首討論で、国会の定数削減についてあれほどはっきりと実行を約束したのに、不履行のまま選挙を実施した。経済政策として前面に掲げる「アベノミクス」でも、2年間で物価を2%上昇させるという目標は、まだ達成していない。

 国権の最高機関である国会という場での約束を平気で破り、果たそうという覚悟も見られないのは大きな問題だ。

 国民の間には、ある種の失望感が広がっている。今後の政権運営にも影響を与える可能性がある。

■怠 慢

 不意打ち解散で、民主党をはじめ各野党が対案としての政策を出せなかったのは、全くの怠慢だ。

 日本のマニフェスト選挙は発展途上にあり、さまざまな条件が整わないと機能しない。

 マニフェストは政党が有権者に対し、政権を取った場合について約束するもので、数値を伴い、事後検証が可能だ。選挙で示し、与党は約束を果たすべく努力する。次回選挙時には検証し、与党は実績を、野党は改善策を有権者に示して選んでもらう。

 しかし、日本ではまだそのサイクルを支える政党が成熟していない。

 政党は欧米のように政策シンクタンクを持ち、平時から政策や公約を練る努力が必要だ。日本は5年前の政権交代選挙後に、自民と民主の二大政党がシンクタンクを解体したのは大きな問題だ。各政党は次の選挙に向けて、すぐにでも政権公約作りに着手する必要がある。

 小渕優子前経済産業相の個人後援会のスキャンダルをはじめ、政治資金の問題がまだ相次いでいる。日本の選挙のあり方はまだ地縁や血縁に頼り、本来の民主主義へと脱皮していない。政党は本来は人材の発掘から育成、スクリーニングまで責任を負わなければならないが、日本ではできていない。

 これらさまざまな条件が整わないため、マニフェスト型選挙の態勢も不十分だったというのが、今回の選挙でも露呈した課題だ。マニフェストの提唱者の一人として、私自身にも反省はある。

 政治行政の役割が「富の分配」にあった高度経済成長期は、有権者も白紙委任で済んだ。選挙公約は破られるためにある選挙までの約束だった。ゼロ成長時代に入り、「負担の分配」が始まるとそうはいかなくなってきた。

 破られる約束の下に選ばれた政治家が信頼されるわけがない。先進国家としてぼちぼち本気で変わらなければと、みんな思っているはずだ。

■好 機

 国政では後退した感のあるマニフェスト選挙だが、来年の統一地方選で復活させようと力を入れている。

 ここ数年、地方選挙はマニフェストと相性がよい。地方選挙で首長や議員が示す公約は、住民にとって身近な課題ばかりだ。近所に保育園が新設されたか、通学路の安全対策は進んだかなど、住民が公約の達成度を自分の目で検証できるからだ。

 マニフェスト選挙は、公約をいつでも検索できるインターネットと親和性が高く、統一地方選でのネット選挙解禁も好機だ。

 くしくも今年は、東京都議会でのセクハラやじや、政務活動費問題で号泣会見を開いた元兵庫県議などの話題で、地方議会に注目が集まった。結果的に地方議会のあり方や役割に関心が高まり、有権者の目が厳しくなっている。

 このチャンスをとらえて、統一地方選を政策中心の選挙に変えたい。

 所長を務める早稲田大マニフェスト研究所では、地方議会や議会事務局を対象に、議員提案条例の勉強会を開くなどして、マニフェスト選挙を啓蒙している。

 審査委員長を務めている「マニフェスト大賞」は年々応募が増え、9回目の今年は全国の首長・議会・市民から過去最高の2223件の応募があった。マニフェストは死んでいない。

 地方議会が変われば、地方自治体や首長が変わり、そうすれば国会議員や中央官僚も変わらざるを得なくなるだろう。

 マニフェスト選挙で、地方議会から国を変えたい。

○きたがわ・まさやす

 早稲田大政治経済学術院教授。衆院議員、三重県知事などを歴任。政権公約「マニフェスト」を提唱、日本に広めた

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈15〉「ハゲタカ」「売国」作家・真山仁さん
2014.12.19 13:00:00
https://www.kanaloco.jp/article/81829/cms_id/117256
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15_a38a0d2ece1ee92121197735606c3f_2 真山仁さん

 

◇この国は絶望の中に
 安倍晋三首相が解散総選挙を打ち出した時に湧いた懐疑の念は投開票を経て確たるものになった。

 「何のための解散だったのか、やはり分からない。要するに無意味な選挙だったということ。結果がそう物語っている」

 自民党の議席はほぼ変わらず、与野党の構図もそのまま。戦後最低の投票率で有権者が何らかの決断を下したとも考えられない。

 政治、経済、外交を横断的に取材し、壮大な世界観を描く手法でベストセラー作品を世に送り出す真山仁さん(52)は「安倍政権のモラトリアム(猶予期間)のための選挙にすぎなかった」とみる。

 結果以上に真山さんが酷評するのは野党、それも民主党の不甲斐なさだ。

 「こういうときこそ、民主党は第3の矢である成長戦略について具体案を出せなければ存在意義がない」

 だが、まともな議論ができる体制を整えられず、全国の選挙区に政権交代可能な数の候補者を出すことさえできなかった。それゆえ「無意味な選挙」が決定付けられた。

 「投票結果やマスコミの調査をみると『安倍政権は嫌だが、民主には政権を取らせたくない』という有権者の意思が表れている」

 過去の失政、そして選択肢となり得ない野党第1党-。二つの意味で民主党の責任は重たい、と断罪する。

■浅薄
 真山さんが安倍政権の継続に感じているのは、危機であり嫌悪であり、恐怖だ。

 安倍首相は侵略戦争と植民地支配の被害国である中国、韓国の人々の心情を逆なでする歴史認識を披歴し、憲法改正への意欲を隠そうとしない。

 「安倍首相を独裁者になぞらえる声もあるが、まったくそんなことはない。安倍首相はそういう言動を格好いいと思っているだけ」

 だがそれは、わずかなアクシデントでより深刻な結果を生みかねない。本人がそのことを理解していないことに事の重大性がある。

 安直でその場しのぎ。数年先の未来より明日の人気を求める-。真山さんは、特定秘密保護法の強行採決に安倍政権の本質的問題をみる。

 「戦前の治安維持法も当初は選挙妨害を抑止するために作られたが、やがて軍部が強権を手に入れる過程で法改正を繰り返し、政府批判の言論を弾圧するという悪法となった」

 浅薄な安倍首相の振る舞いがくさびとなり、本人も意図していない方向へと突き進む。危機感を覚えるのはその短絡さだ。

■危機
 危機的状況は安倍首相が総選挙で信任を得たと胸を張るアベノミクスにもみることができる。

 「景気が回復するんじゃないかというムードがここまで継続しているのは奇跡的。何しろ根拠がない」

 日銀は国が発行した国債を無制限に買い取っている。金融マーケットに大量のカネが流れ込み、円安株高に振れている。しかしこれはいずれ返済しなければならない国の借金だ。

 「自分の足を食べながら生き永らえているようなもの。到底長くは続けられない劇薬だと誰もが分かっている。単なる金融操作にすぎない。国も企業も個人も同じだが、金融操作で生まれたカネはあぶくのようにして消える」

 つまり日本経済が1990年代から繰り返し経験してきたバブル。「だからいま、みんなして次の不幸に備え必死でカネを貯めている。だから消費は拡大しない。このままいけば安倍政権は国がボロボロになるまで金融操作を続けかねない」

 アベノミクスにはもう打つ手がないからだ。「安倍首相は、あした成功したい人。1~2年かけた地道な努力で成長産業を興すような時間のかかることはしない。だから頭の中には株価と為替しかない」

■確信
 だが政権は安倍首相に委ねられた。他に選択肢がないこともまた現実だ。この国はどこへ向かおうとしているのか。

 「可能性があるとすればやはり第3の矢だ。中身のある成長戦略が描けるかどうか」

 成長産業を絞り込んで国を挙げて本気で取り組めば、危機を脱する方策の一つになりうる、と真山さんはみる。

 「選択と集中。農業でも電気自動車でも、世界一になると決め、予算、人材、外交、貿易すべての側面から徹底的に支援すれば、その成長が活路になる」

 だがそれは同時に、多くを切り捨てることを意味する。「つまり嫌われるということ。好かれることを追求している安倍首相にそれができるか」

 恐らくはできないだろう、と一呼吸置いて続ける。

 「ここまできたら、できるだけ早く円安株高バブルは弾けてしまった方がよい」

 そこでようやく政権は正念場を迎える。危機的状況を正確に把握し、腰を据え、成長産業に狙いを定めて腹をくくれるか、という政治の力量が問われる。

 真山さんは当初、安倍首相と菅義偉官房長官について「パフォーマンス好きの首相と、手綱を緩めない菅官房長官のペアはよくできた組み合わせだと思った」という。それも安倍首相の言動に歯止めの利かない様子に危うさを覚え、行く末を案じるようになったという。

 特定秘密保護法の不条理にも言及した小説「売国」(文芸春秋)の中で描かれている日本の首相は安倍首相がモデルと思われる。日本のロケット技術を米国へ売却しようとする計画を止めようとする人物について官房長官が苦々しく心中を吐露する。

 〈一刻も早く叩き潰さなければ。派手な結果が大好きな総理が、本気で「もっと宇宙開発に予算を費やす」などと言い出す前に〉

 物語は、宇宙産業を日本独自の成長産業に押し上げようとするもくろみに暗雲がたれこめ、エンディングを迎える。

 刊行から2カ月。意味を見いだせない総選挙を目の当たりにし、真山さんの思いは確信に変わった。

 「この国は今まさに、絶望のまっただ中にある」

○まやま・じん
 1962年大阪府生まれ。87年同志社大卒、読売新聞中部支社入社。90年退社。フリーライターを経て2004年企業買収を描いた「ハゲタカ」で作家デビュー。12年原発事故と政権をテーマにした「コラプティオ」で直木賞候補。

【神奈川新聞】

 

安倍政治を問う〈16〉 「そのつど支持」加速 政治学者・松本正生さん
2014.12.20 12:17:00
https://www.kanaloco.jp/article/81886/cms_id/117445
魚拓
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 衆院選小選挙区の投票率として戦後最低の52・66%という数字をどう読むか。投票行動をデータから読み解く埼玉大社会調査研究センター長、松本正生教授は「有権者の研究が専門ですが」と前置きしつつ口火を切った。

 「安倍晋三首相が戦術的に日程を決めて解散に踏み切ったことに問題がある。自民党が政権を取ってまだ2年。やはり唐突だった」

 首相自ら信を問うとしてアベノミクスを争点化したことにも厳しい目を向ける。

 「民主党がマニフェストという言葉を政権獲得の戦略として使ったのと同様、言葉として選挙のキャッチコピーとして効果はあった。ただし、アベノミクス自体には中身がない。だから信を問うと言われても、何を判断し、選択すればよいのか有権者には分かりにくかった。わざわざ投票に行く必要があるのかと考えた人が多かったのではないか」

 そして師走の選挙戦である。

 「忙しいさなかに仕事に影響が出る人も少なくなかった。予定変更が余儀なくされ、『政治とは何様なのか』という反感が生まれ、さらに選挙離れが加速することになった」

   ■中高年が下落

 拍車が掛かった選挙離れ。その内実を追ううちに、ここ数年は中高年の投票率の落ち込みに注目するようになっていた。

 投票率というと若年層の低投票率が問題視されてきたが、「下落幅をみると若者より中高年のほうがずっと大きい」。

 例えば、直近の国政選挙であった2013年7月の参院選。投票率は52・61%で、前回10年から5・31ポイント下がった。

 では、年代別の投票率と下落率をみてみる。

 20代の投票率は33・37%で2・80ポイント減。40代は51・66%で7・14ポイント減、50代は61・77%で6・04ポイント減、60代は67・56%で8・37ポイント減だった。

 地方選挙でも同様の傾向がみられる。

 東京都議選(13年6月)をみても前回(09年)から20~24歳が7・00ポイント、25~29歳が7・71ポイントの下落だが、50代は14・47ポイント、60代は14・88ポイントも落ち込んでいる。その1カ月前のさいたま市長選でもやはり中高年の下落率が若者層を大きく上回った。

 松本教授はそこにより深刻な危機が潜むとみる。

 「親世代が選挙に行かなければ若者はもっと行かなくなる」

 当たり前のように投票する親の姿をみた子どもたちが、やがて大人になったとき、当たり前のように投票に行く。そんな家族は過去のものになってしまうのか-。

   ■人間関係薄く

 では、急速な下落は何を意味するのか。

 松本教授は中高年の投票行動自体が変化していることに着目する。

 「特定の支持政党を持たない人が増えている。選挙のたびに支持政党を変える『そのつど支持』が定着してきた」

 社会経験が豊富な中高年は政治的な態度が固まっていると従来から考えられてきた。地域との付き合いや社会とのつながりを深めていくうちに特定の支持政党を持ち、政治的な定見や持論を変えづらい-といった常識が崩れてきているとみる。

 「社会や政治に関心があって、投票した人でさえもこだわりがない。選挙は深く考えない一過性のイベントで、だからそのつど支持を変え、投票している」

 過去の投票の分析結果からもその傾向は明らかだった。

 09年衆院選での政権交代では、自民支持から民主支持に乗り換えた人は若年層より中高年が多く、12年衆院選でも、やはり中高年の動向が自民の政権返り咲きの鍵となった。

 人間関係の希薄化が進み投票や政党を支持すること、つまり政治に関わることに意義を見失いつつある中高年-。選挙のたび振り子のように振れる民意を目の当たりにし、松本教授は意を強くする。

 「政治の効果を生活に実感できないから、投票に意義を感じられなくなっているのではないか。私生活主義になっている。つまり、中高年は身の回りのこと以外に関心が持てなくなっている」

   ■間接情報頼り

 衆院選後、松本教授に最も多く寄せられた質問がある。

 「安倍晋三首相が取り組む個別政策の評価は高くないのに、なぜ自民党が大勝したのか」

 世論調査では集団的自衛権の行使容認や特定秘密保護法の制定といった安倍政権の実績に反対や疑問の声は根強い。衆院選後の勢力図としては自民党1強よりも与野党伯仲を望む声が多かった。

 「政治の問題を普段それほど気にとめていないからだ。世論調査で集団的自衛権について聞かれれば、反対だと答える。だが、それが自身の投票にそれほど影響しない。やはり政治にこだわりがない」

 松本教授はここにも「そのつど支持」の弊害をみる。

 選挙離れが進み、投票に行かない人が増え、政治や政策を継続的な視点で評価しない人が増える。「投票したとしてもその場の気分、ノリ、空気で投票している」

 そして仕掛けられた「アベノミクス選挙」。地域の人と人とのつながりの延長線上にあった政治はいまは遠く、そうであるなら政治や政策の判断はマスコミなどの間接情報に頼らざるを得ない。イメージ戦略にも、世論調査の結果にも左右されやすい。政治家もまた世論調査に一喜一憂し、ポピュリズムに堕してゆく。

 松本教授は強調する。

 「選挙はこの国の方向を決めるものだ。このままでは、代議制というこの国の根幹さえ揺らぎかねない」

 政治家への注文も忘れない。

 「省庁に投票率が上がるように対策を取れと指示しているだけではいけない。自分たちの責任として政治家がどうするか、が問われている」

 まつもと・まさお 55年長野県生まれ。中央大法学部卒。埼玉大社会調査研究センター長。同大経済学部教授。政治学博士。社会調査や世論調査、政治意識を研究する。

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